【88】『姦通罪』が社会へもたらすもの【ラディカル紙】【2004.09.10】

9月6日付けのラディカル紙より。現在、議論の的となっている姦通罪の問題について、ネシェ・ドュゼル記者が、女性と家族の問題に取り組んでいるアンカラ大学講師セルマ・アジュネル女史にインタビューしています。

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Q:EUへの加盟交渉を始めようとしている時期に、与党AKPは姦通の問題を取り上げました。欧州の法律には全く見られない形で、姦通が犯罪とされることを望んでいます。そこで先ず、次のことをお尋ねしたいのですが、保守的な政治家が性の問題に対して見せるこの執着は何処から来ているのでしょう? これによって、彼らは何らかの政治的な利益を得ることができるのですか? それとも、これはもっと深い心理的な問題なんでしょうか?

A:保守的な傾向を政治に利用するのは、トルコで今に始まったことではありません。全ての政党が同様のことをしました。この保守的な考えの底辺には、女性の体への恐れが潜んでいます。この恐れの為に、性的なタブーを作り、女性の体を管理下へ置きたがるんですね。二人の間の関係を、全ての人間の関係であるかのように見て、女性を自由にさせれば、社会の秩序・道徳が乱れるとでも思っているのでしょう。もしも、新しいトルコ刑法がこういう形で通ったならば・・・

Q:どうなるんでしょう? 新トルコ刑法も女性の体を恐れているんですか?

A:もちろんです。もしも、新しい刑法で、「名誉の殺人」(訳注:貞操を破ってしまった者を殺してしまうようなこと)「意図的な殺人」にメスを入れないのであれば、これは女性の体を恐れているということになりますね。

Q:EU加盟を目指すための新刑法でも、「名誉の殺人」が情状酌量の対象とされてしまうのですか?

A:そうです。女性の貞操は男の関心事であるという考え方が、この刑法でも守られています。29条にある「不当な挑発・扇動」というのは、何を意味するんでしょう? 例えば、アフメットさんが、道端で妻と隣家の男が話しているのを見たとしますね、これがアフメットさんにとっては、名誉を傷つけられ挑発されたことになり、彼は妻を殺しても、裁判で29条が適用され、2年半の刑期で済んでしまうのです。ところが、同様の状況で、男の方を殺してしまった場合、これは「意図的な殺人」とされ、終身刑になってしまいます。女を殺した男に「不当な挑発・扇動」が適用されて減刑となる上に、姦通が犯罪ということになれば、「名誉の殺人」はもっと増えて、多くの女性が殺されるでしょう。

Q:AKPは、何故これほど姦通に拘るんでしょう? 姦通はトルコ社会の根本的な問題なんですか? 人口の99%がムスリムであると言われるこの社会で、保守的な政治家がこぞってこの問題に取り組まなければならないくらい姦通が頻繁に行われているとでも言うのでしょうか?

A:かつて刑法にあった姦通罪は、8年前に憲法裁判所によって撤廃されたんですが、これによって、トルコでは家族の絆が崩壊したとでも言うのでしょうか? また、姦通が罪ではなくなったと言って、トルコの夫婦たちは8年間にわたり、ずっと姦通を繰り広げていたんですか? 人々は道徳的な価値を見失ってしまいましたか? そんなことは全くありませんでした。トルコにおける家族の絆は、保守的な人たちが言うように、姦通が行われたといって崩れやしません。そもそも近年見られる離婚の殆どは、経済的な困窮が原因となっています。彼らは、「姦通罪をアナトリアの女性たちが望んでいる」なんて言ってるけれど、実際、彼女たちがそんなものを望むでしょうか?

Q:アナトリアの女性たちは何を望んでいるのでしょう?

A:だいたいアナトリアの女性たちって誰のことですか? 私たちだって、アナトリアの女性たちじゃありませんか。アナトリアの女性たちはね、近代的な条件の満たされた生活をしたいんですよ。トルコでは、いつも社会の方が政治より先へ進んでいます。トルコで女性たちの話題は姦通なんかじゃありません。女性たちは、刑法の他の条項を議題にしたいんです。

刑法には、姦通の他に議論しなければならない深刻な問題が沢山あります。この国じゃ、「名誉の殺人」の問題もまだ解決できていません。首相は、「姦通罪によって男女の平等を実現したい」と言うけれど、それなら、殺人の裁判における男女の平等を実現してもらいたいですね。私たちは、50以上の婦人団体を集めた「トルコ刑法に対する女性の主張」として首相へ面会を申し込んでいます。

Q:面会は実現しそうですか?

A:未だ回答をもらっていませんが、こういったことを首相に説明するつもりです。どこの国でも、法律が作られる時には、「了承」という概念があります。私たちは女性として、「新トルコ刑法」を了承できませんね。「名誉の殺人」「処女検査」や「若者たちの恋愛」を妨げる条項、猥褻の概念、性的な差別といったことにより了承できないのです。

姦通は、全く話題にもなっていなかったし、数年前に解決済みであったはずなのに、突然、また議題として捏造されました。アナトリアの女性の声を聞くのであれば、「名誉の殺人」について聞いてもらいたい。アナトリアの女性たちに、姦通を罪にしようという要求なんてありません。彼女たちは、「『名誉の殺人』によって私たちを殺さないで」と懇願しています。社会保障や職業、融資による支援といったものを望みながら、「私も人間的な暮らしをして、子供たちを立派に育てたい」と言うのです。トルコの女性たちは、「最大の人権侵害である『処女検査』に終止符を打ってくれ」と叫んでいるんですよ。

Q:新刑法の草稿には、若い女性の名誉を傷つけ、時として自殺にまで追いこんでしまう「処女検査」を禁じる条項はないのですか?

A:ありません。「処女検査」を行う道は開かれています。新刑法では、「処女検査」が「生殖に関する検査」と名を変え、「検察と裁判所の許可による行うことができる」と記されているんです。例えば、父親が娘の交遊に疑念を懐いた場合、検察の決定により、娘を検査させることができます。学校が女生徒を検査させることも可能です。

「生殖に関する検査」は、「身体の統一性を守る。襲われることを妨げる」と定義されています。身体の統一性とは、髪や爪、顔からつま先まで全てのことです。襲われてしまった場合、体の衝撃を受けた部分を調べることになります。欧州の法律にも「身体の統一性」という概念はあるけれど、身体の統一性は、単に処女膜を検査しただけで保たれるものじゃないでしょう。新刑法では、若者たちのアバンチュールさえ処罰されますよ。

Q:良く解りません。新刑法には、若者のアバンチュールも禁じる条項があるんですか?

A:明らかにそこまで至るものです。「未成年者との性的関係」という条項を解釈すると、15歳〜18歳の若者が合意の上で関係を持ったとしても、新刑法はこれを認めません。結婚できる年齢を17歳とし、裁判所の許可によって16歳でも婚姻を認める新刑法は、若者たちのアバンチュール、結婚する前に性的関係を持つことを望んでいないのです。「関係を持ったら罰しますよ。結婚してからにしなさい」と言います。つまり「アバンチュールは罪である。アバンチュールは阿婆擦れのやることである」という考えが新刑法には横たわっているんですね。

Q:若者たちの間に関係があったかどうか、どうやって解るんでしょう? 彼らはアバンチュールしていると誰が告発するんですか?

A:処女検査をすれば解りますよ。誰が告発するかということですが、私たちが批判しているのもこの点なんです。法案の定義ははっきりしていません。もしも、その若者たちの一方が15歳、もう一方が18歳と、3歳以上の開きがあれば、告発無しに検察は動くことができます。これは公衆の問題になってしまうからです。要するに、性的なタブーが残っている社会で、個人の関係は一層脅威にさらされるというわけです。

Q:姦通の件に話を戻しますが、姦通を罪とすることが家族の尊厳を守るとされています。子供たちの母親、もしくは父親を裁判所に訴えて、社会のさらし者にさせることが、家族の尊厳を守るのでしょうか?

A:それはどういう家族なんでしょうねえ。健全な家族とは、お互いの敬意に基づく民主的なものです。姦通が罪になることによって出現するものは、憎悪、怒り、復讐心といった感情が支配する不健全な家族の雰囲気に違いありません。これは子供たちの心を蝕み、その人生を憎悪や暴力の上に築かせることになるでしょう。姦通を理由に配偶者を刑務所送りにした後、その結婚生活は継続するもんでしょうか? 刑罰によって健全な家庭は築けません。反対に傷つけるだけです。

Q:この法律により、妻や夫を訴える告発者夫婦の社会になったら、それは社会の尊厳を高めたことになるんでしょうか?

A:高めませんよ、もちろん。姦通に関して「女性人権プロジェクト」が行った調査の結果によれば、女性が姦通した夫を訴えることは難しいようですね。66%の女性が「訴えたら、夫は私を殺すだろう」と答えています。これには情状酌量が与えられるわけですからね。女性たちは自分に暴力を振るう夫さえも訴えることができない状態です。夫ばかりじゃなく、息子や兄弟からの暴力にもさらされているのに、こちらも訴えることができません。

東部の場合、女性がそう望んだところで姦通した夫を訴えることなんて無理です。夫が刑務所へ入っている間に、家族の他の男が彼女を殺してしまいますよ。姦通を罪にすることで、女性は解放されやしません。これは女性を守るものじゃありませんね。

Q:AKPは、‘政府を寝室にまで入りこませて’いったい何をしたいのでしょう?

A:家庭や人間関係にまで介入し、何の利益にもならない保守的な伝統を政治化させようとするのは、この国でAKPばかりじゃありませんよ。CHP(共和人民党−訳注:左派の第一野党)だって、最初はこの法案を支持していました。政教分離を擁護する政党が、イスラム法を想起させる姦通罪を、具体性のない平等に基づいて支持するなんて理解できることじゃありません。

憲法には「個人の生活を守る」という条項があり、政府は個人の生活へ介入できないことになっているんです。刑法もそれに従わなければならないでしょう。個人の関係については民法が明らかにし、刑法は「性の悪用」や「性的な暴力」について適用されます。姦通は、「性の悪用」でも「性的な暴力」でもない、二人の個人的な関係です。刑法に姦通を扱う余地なんてありませんよ。トルコはこの問題を8年前に解決して、姦通は民法の扱う問題となり、離婚の理由に数えられています。それに、今また姦通罪を復活させれば、EU加盟交渉の障害となってしまうでしょう。

Q:トルコでは、「イマーム・ニキャーフ(訳注:イスラム導師の承認のみによる非合法の婚姻)」が、特にアナトリアの農村地域に良く見られます。また、「イマーム・ニキャーフ」によって複数の妻を娶っている男性たちは、大概の場合、AKPを支持しているでしょう。新刑法によれば、彼らは姦通罪を犯していることになるはずです。AKPは、その支持層を向こうに回すリスクを負いながら、「イマーム・ニキャーフ」を根絶しようという作戦に出ているんじゃありませんか?

A:トルコには本当に矛盾したことが多いんですね。「イマーム・ニキャーフ」であれば姦通罪を犯していることになるから、刑務所へ入らなければならないとした場合、トルコ中の町々に一つずつ「姦通刑務所」を造らなければなりませんよ。おそらく百万を超える該当者がいるでしょう。政府はまずこの問題を解決しなければなりません。「イマーム・ニキャーフ」により、女性ばかりでなく子供たちも深刻な被害を受けています。なぜなら、住民登録もなく、学校へ行けない子供たちもいるからです。

Q:新刑法により、「イマーム・ニキャーフ」は姦通罪となるでしょう。すると、姦通罪に一役買ったことにより、その婚姻を承認したイマームも裁かれる必要はありませんか?

A:当然です。幇助したわけですから。姦通罪を設けるだけで事は終わらないんですね。それに伴って色々なことが出てきます。

Q:姦通罪によって女性を守ると言ってますが、どうやって守るんでしょうね?

A:守れませんよ。本当に女性を守りたいのだったら、彼女たちが人間的な条件の下で生活できるようにしてあげないとね。この国の貧困層の7割は女性と子供たちですよ。政府は、姦通に拘るくらいなら、女性たちに教育を与え、職が見つかるようにしなければなりません。

Q:姦通罪が出来た場合、警察官は訴えにより家を捜査することになりますか?

A:多分そうでしょう。個人の部屋にまで係官が出入りすることになるんです。

Q:それと、アナトリアには、語られることのない「独り女」という存在がありますよね。根拠のない告発により、彼女たちが社会の標的にされてしまう可能性はありませんか?
(訳注:「独り女」が何を意味しているのか友人に訊いてみたところ、アナトリアの農村地域では、若い女性が離縁もしくは死別した場合、再婚することが難しく、その殆どが独身のままでいることを余儀なくされ、周囲からも冷たい目で見られることが多いということです。)

A:もちろんです。魔女狩りのようなことになってしまうかもしれません。そもそも女性は姦通の被害者であるのに、またもや女性が害を被ることになるんですね。

Q:さらに、親が姦通罪で逮捕された場合、子供に与える影響も心配です。周囲の人たちや友人たちは、その子にどういう態度を取るでしょう?

A:疎外され、さらし者になってしまうでしょう。姦通が罪となり、これを訴えることは、夫婦の間を心理的に荒んだものにしてしまうから、こういったトラウマを味わった子供は、将来、健全な家庭を築けなくなります。

Q:以前、貴方は、家族と女性の問題に関して、メスット・ユルマズ首相のアドバイザーだったことがありますね。夫婦の一方が姦通を犯し、もう一方が、その姦通したパートナーを世間のさらし者にしてしまうほど憎み、敵意を持った場合、法がその夫婦関係を守ろうとすることは、家族の尊厳に相応しいでしょうか?

A:全く相応しくありませんね。姦通は罪ではなく、二人の合意によってもたらされた関係です。これは離婚の原因にはなり得るでしょう。離婚そのものが既に充分な罰になるのではありませんか? 姦通を罪と見なすことは、個人の生活に対する侵害ですよ。

Q:トルコの社会は、人々が自分の個人生活に関わる問題を、自分で解決することができずに、政府の手を借りなければならないほど未発達なものなんでしょうか?

A:もちろん違います。貴方とは7年前にも、「処女検査の撤廃」について話し合ったことがありますよね。その後のことなんですが、アナトリアの男性数名が電話してきて、「娘たちの権利を守ってくれた」と言って喜んでくれました。人々は抑圧に対して抵抗しているんです。女性たちは、「私は自分の名誉を自分で守る。私を殺さないで欲しい。私は自分の名誉を他人に守らせたりはしない」と叫んでいます。ところが、私たちを代表している人たちは、この真実を聞いていません。

Q:一方でEU加盟を目指して素晴らしい改革を実現しながら、一方では姦通罪に拘っているAKPには明確な一線というものが見えません。彼らは混乱しているのでしょうか?

A:現時点で明確な一線というものは見えませんね。「貴方は本当にEU加盟を望んでいるのですか?」と首相に訊いてみますよ。トルコは、加盟交渉を始めるために、政治的な条件をそろえなければなりません。その条件の一つが男女の平等であり、それに準じた刑法でもあるわけです。男女の平等については、交渉開始の障害になるほど深刻なものとなっています。キプロス島ぐらい重要な問題ですよ、これは。

欧州委員会は、10日前にも、これを条件として通達してきました。「女性の人権は、この国において未だ問題である」と言ってるんです。姦通を罪にして、「処女検査」を許し、「名誉の殺人」に情状酌量を与えるような刑法が国会を通るようであれば、EUは加盟交渉開始期日をトルコに示してくれないかもしれません。

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